HyperLolia:InnocentHeart
−夜の森−
007:Forest in The dark


フリーテ・エルシュタイン。
彼女は元々、ミッドガルド北部に住む少数民族の出身である。
青味がかった銀髪と白い肌は、ロリア達大陸中央部の人々とは違う繊細な印象を与える。

十数年前の事である。
彼女の居た集落が突如、発狂したモンスターの集団に襲撃を受けた。
その規模は大きいもので、彼らは難を逃れるため南へと逃走。フリーテはこの避難民の一人だった。

しかし、魔導都市ゲフェンまであと三日の行程にあった山岳地帯で再び襲撃を受け、そこで両親を失った。
この時王国から派遣された護衛隊の任に着き、防御指揮をしたのがミアンシアの父である。
フリーテもこの戦乱の最中、命を落としそうになるが…たまたまグラストヘイム方面守備隊への任期交代に
近くを通りかかった王国軍の部隊、当時は小隊長だったラスターに助けられ、事無きを得る。

だが…その後、ラスターが生き残った避難民を見舞いに訪れた時に見つけた彼女は、
襲撃の恐怖と両親を失った衝撃で、心を閉ざしてしまっていた。
身寄りの無くなった彼女は、施設に保護される寸前でラスターの部下であり、友人でもある
マーク・エルシュタイン軍曹によって引き取られる。

このまま彼女を施設に入れる事を、不憫に感じたラスターはマークに話を持ちかけた。
マークは半年前に妻を病気で亡くし、その失意から何とか立ち直りかけている最中であった。
戦場に身を置く軍人である以上、常に危険と隣り合わせで生きていると言ってもいい。
そんな中を生き抜く為には何でもいい、生きようとする強い思いを持たねばならない。
これはラスターが常日頃思っている信念でもあった。

妻を失ったマークにそういう覇気が薄れていることを感じ、危うく思っていた彼は
娘…という、守り、育て、帰りを迎えてくれる存在があれば、それは彼の為にもなると思ったのだ。
その効用は彼自身、強く感じているからこその考えであった。
突然の話にマークは当然ながら驚き、困惑し、渋ったが…。
結局、任務に就いている間はエアリーが面倒を見てくれるという事も条件に、
最後は「命令だ」と、ラスターは半ば強引に話をまとめさせた。

…こうしてフリーテ・エルシュタインとしてフェイヨンに住む事になった少女は、
最初は引きこもり、空虚で無為な日々を過ごすばかりだった。
しかし、ヴィエント家の姉妹達…とりわけロリアとの触れ合いの中で、いつしか自分を取り戻した。
マークの娘というよりはヴィエント家の家族のような日々が多かったが、
フリーテはマークに感謝と尊敬の念を抱いていたし、マークも利発で素直なフリーテに
次第に親として愛情を覚えるようになっていった。

そのマークも三年前、ミッドガルド南部・サンダルマン要塞で起きた魔物との戦闘中、
毒矢を受けた傷が元で、あっけなく他界してしまった。
また一人になってしまったフリーテの悲しみは相当なものではあったが、
以前とは異なり、ロリア達と分かち合うことで乗り越えることが出来た。
以来、フリーテは遺族年金を受けながら一人で暮らし、教師を目指して勉学に励む毎日だったのだが…。

「ふぅ…」

ロリアの姉、ファルが旅発つ前にくれた剣…ブレイドを横薙ぎに払い、
刃身に纏わりついた緑色の体液を払い飛ばす。
このブレイドが、延べ九回も火を入れられた業物と知ったのはつい最近である。

(こんな事も、冒険者にならなくては判らなかった事なんでしょうね…)

イズルードから南へ半日…砂漠への入り口となる広く、乾いた荒野に彼女は居た。
凛々しい剣士姿に、装備をぶら下げ、額にはやや汗を滲ませている。
足元には、巨大な蟻の死骸。
今まさに覚えたての剣技『バッシュ』の威力を試したばかりなのであった。

(少し前の私なら…そう、こういう晴れの日は庭でゆっくり読書なんかして…。
 まさか、こんなモンスターと戦うなんて事…思いもしなかった)

別に、早くも昔を懐かしんでいる訳ではない。
むしろ、この『冒険者』生活をフリーテは受け入れつつあった。
知らない世界に飛び込む事、未知の経験を繰り返す事自体は、彼女の好奇心や知的欲求を満たし、
フェイヨンに居た頃では得られなかった刺激ある日々になっている。
さらに、この日々がロリアを守る力になるのなら、それは殊更有意義な事に思える。

(とは、言え…)

ここ数ヶ月の状況変化に、未だ戸惑いを感ぜずにはいられないのも…また事実であった。
先ほど倒した蟻の、外皮の傷の付いていないところを拾う。
収集品専用に用意したサックにそれを入れる所で、もうかなり溜まっている事に気付いた。
モンスターを利用した武器防具、工芸品、道具…そんな産業がいつのまにか広く流通しており、
フリーテは今まで知らなかったのだが、冒険者の間ではポピュラーな取引材料になっているのだった。

今の彼女が戦い、倒すことが出来るモンスターの収集品にはそれほどの価値があるわけではないが、
これを売ることで、いくばくかのお金は手に入れる事が出来る。
そうやって稼いだ資金で自らの装備を整えながら、宿に投錨して待ち続け…あれから二十日。
ロリアからの連絡は、途切れたままであった。


イズルード。
アルベルタへの連絡船の利用やバイラン諸島の海底神殿へ挑む者など、とにかく冒険者の数が多い。
プロンテラやフェイヨンは冒険者と住人の区画が分けて整理されており、居住区を歩く時などは
冒険者は武器を隠す等、一般人にそれなりの配慮を強制されるものだった。
その点、この街では気兼ねなく装備をむきだしのまま歩く事が出来た。

フリーテは商人に収集品を売り払うと、そのまま露店が並ぶ通りへ。
時には魔物と戦い、時にはこのように看板を掲げ、店を出して商売に精を出す―。
いわゆる冒険商人と呼ばれる者たちが、様々なアイテムを並べ、列を成している。
その一つの前で立ち止まり、必要な雑貨をまとめて買いつつ、その商人と雑談に興じた。
風の魔石『ラフウィンド』が込められているという剣を見せて貰ったが、
今の彼女にはとても手の届く値ではない。
それでも、もし買える時は値引きしてくれる…という確約を取り付けて別れた。
こういう冒険者同士のやりとりというのもまた、フリーテにとっては新鮮で楽しい事だった。

別の露店でリンゴジュースを一つ求めると、それを手に港の見える小さな公園へ向かった。
船を待つ者、人を待つ者の邂逅する場所…そして、憩いの場でもある。
目の前では、中型の帆船が今まさに接舷しようとしている所。
船首のプレートから、アルベルタからの定期便だと判った。
活気に溢れる人ごみの外れで、フリーテは街路樹にもたれながら小さく溜息をついた。

「ろりあん、どうしちゃったんでしょう…」

連日のように、剣士ギルドを通して初心者訓練場に所在の照会を依頼していた。
約二週間前に『初心者訓練場を卒業』し、『アーチャーギルドへ出頭・所属』した。
そして、その転職試験の為にフェイヨン郊外へ出掛けた…という報告を最後に、
ロリアの消息はぷっつりと絶たれてしまった。
各地の冒険者ギルドを通じての個人的連絡は、ひとつのサービスとして頻繁に行われている。

(連絡する機会はあったはず…何も無いというのは、どういう事なんでしょう…)

初心者訓練場での危なっかしい彼女を目の当たりにしているせいか、悪い方へ考えがちな想像を
何度も頭を振って、払拭してきた。
自分からフェイヨン方面へ向かおうとも思ったが、消息が判らない以上手当たり次第に探すわけにもいかず、
ここで行き違いになったりしたら、また面倒な事になと思うと動けない。
それに、冒険者になって約束どおりに来てくれるはずの、ロリアを信じたい気持ちもあった。
…そんな考えを自分の中でぐるぐる巡らせながら、ただ待つ事しかできない歯痒さ。
ここ数日、フリーテはすっかり溜息が多くなった。

リンゴジュースに口をつけながら、船から降りて来る乗客の群れを見る。
フェイヨンから南ルートで、アルベルタ港から船を使いここイズルードに来るという可能性もある事から、
この定期船の到着時間にはいつも様子を見に来ていた。
数多い冒険者が居るが、女性アーチャーに支給される青い狩猟服は一段と目に付く。
それがちらと見えるたびに、フリーテは眼鏡が落ちかねない勢いで顔を確認していった。
…そして、今日も落胆を繰り返して終わると思った、その時。
船を降りてきたアーチャー服のその姿…装備一式を抱えて、周囲に目もくれず早足で歩く人物。
確かに見覚えのあるその顔向かって、フリーテは慌てて駆け出した。

「…ミアンシアさん!」

呼ばれた少女は長い金髪を揺らしながら、少し驚いた顔で振り向く。
そして、相手が誰かと知るや、その口元は薄い笑みに変わった。

「あら、フリーテ…お久しぶり。すっかり剣士姿が板についてるじゃない?」
「ろ、ろりあんを…ろりあんを、知りませんか!?」
「会うなりいきなりそれ?…あなたってば、変わらないわねぇ」
「…私の事はどうだっていいです!」

フリーテは元々、社交的な性格ではない。
決して無口な訳ではないが、いつも自分の中で必要性を付加して会話を切り出す傾向にある。
その為、言葉の端々に壁のような固さがあり、初対面の人間にはやや冷淡な印象を与えがちだった。
…そんな彼女だからこそ、反りが合わないミアンとは積極的に会話をしたいとは思わなない。
今だって、ロリアの件が無ければ彼女を見なかった事にしたいくらいなのが本音だ。
しかし、自分と離れてからのロリアを知る、唯一の知り合いである以上、
何らかの情報を引き出さねば…と、フリーテは食い下がった。

「初心者訓練場を出て、アーチャーギルドに行った所までは判ってるんですが…。
 その後、何も連絡が無いんです」
「私も転職の時に訓練場に問い合わせて、驚いたわよ。
 あのぼんやりした娘が、よくも卒業できたものよねぇ」
「私は、信じてました」

あっそ、とミアンは肩をすくめる。
煤けた色をしたハットに、背負ったコンポジットボウと矢筒。
装備の程度はあれ、フリーテから見れば既に立派に『冒険者』しているように見えた。

「私がアーチャーギルドを出る時に聞いた話では、転職試験に出たまま戻ってないって。
 そうね…かれこれ十日程前の事ね」
「そんな…」
「ま、試験って言っても野外で狩りをしながらだから…既に冒険者生活と変わらないわ。
 一週間や二週間野宿を繰り返すのも、別に普通の事でしょ?
 もっとも、ロリアの事だから…今頃どうなってるんだか、分かったもんじゃないけどね」

クスクス笑うミアンに、フリーテの視線が厳しくなる。

「じょ、冗談でも、そういう事言わないで下さい!」
「あら、ごめんなさい…でもね、何もかも楽天的に考えない方がいいと思うけど。
 そうね…ひとつ、言っておくわ。
 あの娘の根拠の無い前向きさに付き合ってたら…フリーテ、あなた死ぬわよ」
「!?」

突然、口に出された『死』という言葉と、ミアンの表情が一変して険しくなった事に、
フリーテは背筋が凍るような戦慄を憶えた。

「…どういうことですか?」
「ロリアは今でも、ちょっと夢想癖のある街娘のままだ…って事よ。
 田舎街のそれなら、可愛いだけかもしれないけど…あの娘が理想の為に真剣になるほどに、
 周りの人間がそれと知らずに、危険に巻き込まれていくわ」
「何故、そんな事が言えるんですか!」
「判るわよ、ロリアは皆に好かれるから…ね。
 あの娘に命の危険があれば、代わりに死んでもいい…って、そんな人間がいるはず。
 例えば…フフッ」
「………」

ミアンの嘲笑混じりの視線を、フリーテは睨みながらまっすぐ受け止めた。

「…そうです。
 ろりあんが危険なら…私は自分の命だって、省みない覚悟です」
「そう言うと思ったわ」
「それが、何かいけないんですか?陳腐な友情だって笑いますか?」
「…素敵な事だと思うわよ、フフッ。
 ただね、あなたは彼女の理想の為に命を賭けているんじゃないわ。
 ロリアーリュという個人、その人間が好きだから全力で助けたいと思っている…」
「!?」
「そう思っている以上、どんどん食い違っていくわ…あなたが剣を振るう理由と、現実とがね。
 いつか戦いの中で迷いが出た時、フリーテ…あなたは死ぬわ、ロリアのせいでね」
「ば…馬鹿な事を言わないで下さい!」

心に囁きかけるようなミアンの、辛辣な言葉を吹き飛ばすかのように…フリーテは叫んだ。
強い、強い剣士になって…ロリアを守る為に、剣を振るう。
それは今のフリーテが日々、鍛錬を重ねる為の糧になる思いだった。
揺ぎ無く抱えていた自分の大切な気持ちを、いわれも無く踏みにじられた、一方的な屈辱感。
元よりあったミアンに対する嫌悪…それも入り混じって、フリーテの右手は感情的に動いた。
ようやく最近、身体に慣れ親しんできた―ブレイドの柄へ。

「あら…こんな街中でPVPでもやるつもり?
 ドアマンの認可も無く、刃傷沙汰を起こした冒険者がどうなるか…。
 優等生のあなたなら、知らない訳じゃないでしょう?」
「………」

冒険者同士の果し合い―通称、PVPと呼ばれる『決闘』はドアマンと呼ばれる、
王国から派件された役人の認可をもって、初めて戦闘する事が許される。
無論、管理の目が行き届かぬ外界ではそれも建前にしかならないが、少なくとも都市部では一般市民に対して
冒険者は規律を守り、王国の管理下で健全に冒険をしている…と、印象付けなくてはならないのだ。
それを無視して斬り合いを演じれば、一躍犯罪者の仲間入り…王国そのものを敵に回す。
…そんな簡単な事が、判らないフリーテではなかった。

「…この剣は、ただ魔物を倒す為のものじゃありません。
 私達の『敵』を斬る為に、ここに携えられているんです…!
 覚えておいて下さい、ミアンシア」

真剣な眼差しを、ふんと鼻で笑うミアン。

「それも面白そうね。
 いつかそんな日も来るかも知れないわね…。
 私のこと、ずっと嫌いだったんでしょう?フリーテ」

(…嫌い?)

フリーテはミアンの事を、その物腰を、発言を、態度を疎ましく…時に不快に思っていた事は確かにあった。
だが、それ即ち『ミアンの事が嫌い』であるからだという結論を口に出した事は無かった。
こういう時ならいつも傍にいたはずの…ロリアの微笑で、気持ちの高ぶりは嘘のように溶けていたから。
…しかし今は、フリーテが感じる自分自身の刺々しさを、抑えるべき何ものも存在しなかった。

「そう…そうですね、嫌いなんだと思います」
「ふふ、正直ね…私もずっと、あなたが大嫌いだったわ」

ミアンは至極満足そうにそう言うと、街へと向かう道へときびすを返した。

「ま、待ってください、まだ話は…!」
「ロリアは」

声を荒げるフリーテを制するように、ミアンは顔だけこちらに向ける。

「…あの娘は冒険者に向かないわ。
 今頃どこで、どんな地獄を見ているか判ったもんじゃないわよ。
 手を打つなら、早めにする事ね」
「ミアンシア…」
「ま、もう手遅れかもしれないけど」

そう言い捨てると、ミアンは肩で笑いながら、街の雑踏へと歩いていく。
フリーテはその姿を見ながら、今度は身体を動かすことが出来なかった。
…あれから二十日。

(もう…待ち続けているなんて、我慢できない…)

何を差し置いても、早急にロリアと合流すべきだ…と思った。

(あと三日…それだけ、それだけ待ちますから、ろりあん…)

できれば自力で、無事にここへ来て欲しい。
しかし、それがまだ困難な状況ならば…手助けすべき人間は、自分しか居ないのだ。

…ミアンに何と言われようと、それがフリーテの戦う理由なのだから。


ミアンシアがイズルードに上陸し、フリーテと再会した時から五日ほど遡る。

ロリアは初心者訓練場から、フェイヨン郊外にあるアーチャーギルドへと転送され、
そこでアーチャーに転職する為の講義と試験内容の説明を受けた。
郊外とは言え、こんなに早くフェイヨン付近に戻ってくるとは思ってもおらず、
一瞬…家に寄り帰ろうかとも思ったが、こんな段階で郷愁にかられてどうする!と自分を叱り付けた。

アーチャー転職試験は、聞くだけなら簡単なものだった。
このフェイヨン近郊に、古い樹木が魔の波動を受けてモンスター化した
ウィロー』と呼称される魔物が居る。
それを出来る限り倒して、その亡骸から取れる『木屑』を収集してくる事。
また、木屑はその状態により点数が設けられ、計四十点数以上で合格とする。

…つまるところ、いきなり外に出て会敵しなければならない、超実戦形式。
まだ冒険者としての生活に不慣れのまま、ロリアはフェイヨン南の森へと飛び出した。
南下すれば、あの…達が巣食うエリアに近づく。
当時の恐怖、悲しみがいまだ胸にささくれだつ彼女は、自然と足の向きを西に向けた。

フェイヨンより西側の森は比較的安全度が高く、徒歩の冒険者や通商の足も行き交う場所である。
とは言え、自然による障害はさすが人の手の入らない場所らしく、慣れない者が進入すれば
彷徨うことは必至の深い樹海であった。

…ガシャンッ!

ロリアが突き立てたナイフを基点に、裂けるように木片が散らばっていく。
ウィローと呼ばれるその魔物は速度も反応も遅く、油断して強烈な一撃を受けさえしなければ
今のロリアでも充分に立ち回れる強さであった。

「これで三つ目…あ、これはきめ細かいから、点数が高いかな…」

ウィローの残骸から、比較的綺麗な木屑を拾ってサックへ放り込む。
…最初に倒した時は、この程度なら余裕とさえ思ったロリアだったが、
この深く、見通しの効かない森の中ではまず目標を探すのさえ大変だと、ようやく気付いた。
敵はウィローではなく、この大自然の迷路なのである、と。

「うぅ、シャワー浴びたいな…せめて、川でもないかなぁ…」

陽射しは森を焼き、焼かれた木々と大地は湿気を吐き出す。
不快なむし暑さに、ロリアはため息をついた。
改めて冒険者生活に飛び込んでみると、今更ながら戦いの腕ひとつでは成り立たない事に気付く。
食料・薬・道具…あれもこれも足りないと、何度も気づかされる事しきりだった。
ふと、今頃フリーテやミアンは上手くやっているのだろうかと思う。

フリーテの現状は良く判らなかった。
ギルドに戻ったら問い合わせようと思いつつ、今では先を急いでしまった事が悔やまれる。
真面目でしっかりした彼女の事だから、上手くやっているはずだという確信はあったが、
自分の事を必要以上に心配していないか…それだけが気掛かりだった。

ミアンは…今頃、この空の下で自分と同じような戦いを繰り広げているのだろうか?
怪我の治療と休息の為、彼女より一日遅れてアーチャーギルドに来たロリアは、
既にミアンが試験の為に近郊の森へ出掛けたことを知る。
今まで出会っていないという事は、もっと奥深くへ分け入ったか、もしくは南方へ向かったか…。
…彼女に会って、もう一度言葉を交わしてみたかった。
だが、今の自分では、何を言っても彼女の心に届かないような気もする。

(ミアンが認めてくれるくらい…私の事を無視できなくなるくらい、
 強い冒険者にならなくちゃ駄目なんだ)

その思いもまた、ロリアを奮い立たせる原動力の一つに変わりつつあった。

「…居た!」

バキバキ…と枯れ木を踏み割りながら、太い丸太のような姿がゆっくりと現れる。
宿った魔性が人の『眼』を模して、二つの光を揺らしていた。
ロリアはゆっくりと近づきながらも、その視力で『敵』の姿を観察する。
もっとも脆そうな、効果的に攻撃を与えられそうな部分に初撃を与えるため、目標を絞り込む。
そして、心の中で頷いた自分を合図に、駆け出した。

「ええぃ…っ!」

日はまだ高く、長い長い冒険者の一日は、まだ始まったばかりであった。


「はぁぁ…」

三日後。
ロリアはまだ、フェイヨン西の森の中に居た。
周囲はすっかり日が暮れて、樹海を暗闇が覆い尽くそうとしている。
魔物避けと食事の支度の為に、火を起して薪をくべる。
サックに溢れそうになっている樹木の欠片のひとつを、その中へ放り込んだ。
きめの細かい木屑はパチパチ、と小気味いい音を立てて一瞬心を和ませてくれる。
だが、それも一瞬だけだ。

「はぁぁぁぁ…ぁーぁ…」

深い溜息が、暗闇に染まる森の中へ吸い込まれていく。
…ロリアは、道に迷っていた。

「東に進めば、絶対抜けられるはずなんだけどなぁ…」

一人、首を傾げる。
無用心に奥へと分け入ってしまったのが不味かった。
ウィローを追って急斜面をすべり降りた事は覚えている。
それから戻ろうとした時…周囲は登れない段差に囲まれていて、自分がどこから降りてきたか、
見当さえつかない有様だった。
それでも、いざとなったら東へ向かえばなんとかなると甘く見たのも不味かった。
何度歩き回っても、東側へ抜けられそうな道が無いのだ。
北と西へ続く道は発見したが、そちらへ向かえばフェイヨンから大きく離れてしまう。
既に合格量を超える木屑を集めながらも、こんな所で道に迷って足踏みをするとは思いもよらず、
情けなさと歯痒さでただ、溜息ばかりが漏れた。

割と冒険者の通行も多いと聞いていたはずの森だが、この三日間、誰ともすれ違う事が無い。
それというのも、カプラサービスによる各街から街へのワープポータルが広く普及し、
この道を通ろうという冒険者は減少の一途なのであった。

鍋代わりに火に掛けた、少し大きめな金属製のカップがコトコトと揺れて湯気を上げる。
森の中で見つけた食べられる草木や茸に、簡単な味付けをしたスープが出来上がった。
こういう時に、エアリーと一緒に薬草摘みに行った経験が生かせるとは思ってもみなかった。

「いただきます」

一人、手を合わせてからスプーンですする。
持ち合わせの少ない調味料を節約している為、ひどく薄味だった。
森の暗闇に囲まれて、星の下、一人で貧相なスープをすすっている…。
こんなに侘しい夕食が三日も続くなんて、生まれて初めての経験だった。

(こういう状況に耐えることも、冒険者として成長する為の試練なんだよね…きっと)

そう自分に言い聞かせてはみるものの、勝手の違う生活習慣にまだまだ戸惑いは大きい。
きちんと拭いてはいるものの、身体も匂わないか心配で、早くお風呂に入りたいとも思う。

「なんとかして、このままフェイヨンに戻る道を探すか…。
 それとも一度、プロンテラ方面に抜けて…人通りの多いところで、道を聞くとか…」
 
今まで集めてきた収集品を売りさばけば、プロンテラからのワープ代くらい出るかもしれないと思う。
どちらにしてもフリーテを待たせている以上、いたずらに時間を浪費する訳にもいかないのだった。
ならばそのままイズルードに直行して、合流するのが手早いはずなのだが…。

…やはり、きちんとアーチャーに転職するまでフリーテに会いたくなかった。
ここで、まだノービスの格好で道に迷って仕方なく…なんて状態で会ったら、
そんな情けない自分を、フリーテは益々心配するようになるに違いない。
それでは駄目なのだ、と思う。
友達としてではなく、冒険者としては…お互いの強さに信頼を置ける関係にならなければ。
フリーテはきっと、何も言わなくとも自分の盾になろうとしてくれるだろう。
だが、どちらかがどちらかを守りつづける関係…それはまるで、主従の様ではないかと思う。

(私は…いちばん大好きな友達だから、ふーちゃんとは隣同士で歩きたいよ)

…とは言え、今まで散々心配させてしまうような姿を見せてしまった。
さらに目下迷子中で、きっとイズルードで待っているであろう彼女をやきもきさせているかもしれない。
はぁ、と今日何度目かも知れない溜息を漏らした…その時。

パキ、パキ…と、小さな音が耳に入った。
枯れ木を踏みしだく音。

(魔物…?それとも…)

用心の為、ナイフを鞘から引き抜き、逆手に持つ。
火を消そうかとも思ったが、この音の距離感からするともう手遅れだろう。
それに、音はこちらへ…火の方へ近づいてくるように感じる。

「………」

人の声のようなものが聞こえた。
それに、明確に聞こえてきた足音は…二・三人のもののようだ。
相手が人なら、悪戯に敵対するようなそぶりを見せていいものだろうかと、一瞬悩む。
しかし、追い剥ぎのような悪質な賊だったら?
この二晩は人に会うことも無かった為、この状態でどういう対応をしたら良いのか。
しかし、ロリアが迷っているうちに…音は近づき、木々の陰から一つの顔が現れた。

まだ幼さの残る、少年の顔。
そして、その姿はロリアと同じ…冒険者、ノービスクラスの装備を身に付けていた。
互いに目を合わせ、ほっとした表情になる少年。
緊張していたのはどうやら相手も同じの様だった。

「…サスキードさん、僕達と同じ冒険者のようですよ!」

少年が、その背後の森の暗がりへ向かって叫ぶ。
事態を飲み込めないロリアが目を丸くしたままの所へ、再び森の奥から二人の男が姿を見せる。
一人は背の高い、線の細いアーチャー姿の男。
その後から着いて来た体格のいい男は、何やら荷物の入ったカートを引きながら現れた。

「おや、ノービスがこんな所、こんな時間に一人とは…」

アーチャー男がそう言いながら帽子を取り、軽くお辞儀する。

「突然、失礼。
 私は見たとおり、冒険者でサスキードと言う者です。
 こっちは弟のガージャ、冒険商人をやっています。
 彼はノービスのエディ君」
「は、はい…?」

ロリアはまだ緊張が解けずに、上手く返事する事ができず頷いた。

「訳あって、アルベルタまでの道を急ぐ所だったのですが、
 色々アクシデントが重なって、こんな時間に森に入る事になってしまいまして…。
 どこかで休息しようかと思っていた所、灯りが見えたもので。
 良ければ、ご同席させていただいても?」
「えっ…あ、はい、どうぞ!」

サスキードの物腰の柔らかさにか、あるいはここ数日の殺伐とした戦いの連続のせいか、
ロリアはにわかに人との触れ合いそのものに、嬉しさを感じていた。

「…僕はエディ、エディ・メルロム。
 君も、ノービスクラスなんだ…よろしくね」

冒険者達が荷物を降ろし、火を囲むように座っていく。
エディと名乗った少年はロリアの隣に腰を下ろしながら、そう言って笑いかけた。

「私はロリアーリュ・ヴィエントです。ロリアって呼んで下さって構いません」

気さくな少年の様子に、ロリアはそこで初めて笑顔を見せることが出来た。
後ろ手にしたナイフを、こっそりと鞘にしまう。
どうやら、危険な人々ではないようだ…そう思いながら。


小一時間も歓談しているうちに、ロリアはこの突然出会った冒険者達と打ち解けていた。
サスキードとガージャは兄弟で、いつも二人で冒険していること。
エディは冒険商人を目指して頑張っていること。
プロンテラ南で彼らは出会い、アルベルタまで一緒に行こうとパーティーを組んだこと。
三人の話は、まだ冒険者となって日の浅いロリアには興味深い内容ばかりだった。

「…とは言っても、僕もまだ冒険者になって二週間も経ってないんだけどね」

そう言って恥ずかしそうに笑うエディですら、経験豊富な先輩に見えたほどだ。
ガージャはせっかくだからこの出会いに乾杯しよう…と、カートからブドウ酒を出して全員に振舞った。
実は、ロリアは酒を料理に使ったりはするものの、嗜む習慣は無かったため
いきなり差し出されたそれに、口をつけるのを少々躊躇いがあった。
…が、頂きものなのだから…と、それをあおる。
苦味と甘味が口一杯に広がり、酒気に頭がずきんと揺さぶられる。

「…おいしいですね、これ!」

初めての飲酒に、ロリアは顔を綻ばせた。

「だろう?ささ、もう一杯ぐいっと行こうか」
「はい!いただきます」

ちら、と視線をサスキードに送ったガージャは、にやりと笑う。
というもののこの兄弟、日頃からアイコンタクトで会話する事が得意だった。
何故なら…冒険者の傍ら、様々な犯罪行為にも手を染めていたからである。

先刻から、二人はロリアとエディの会話をにこやかに聞きながら、
全然別のことを話していた。

(…兄者、兄者…)
(…なんだ弟者…)
(…気付いてるか、この小娘…)
(…ああ、随分木屑を溜め込んでるな、この分だと収集品もかなり…)
(…違うよ兄者!胸だよ、胸!…)
(…まぁた、お前はそんな事ばかり考えて…俺たちゃ追われてる身なんだぞ…)
(…だって、もう三ヶ月もご無沙汰なんだぜ…あんな胸見せられたらよぅ…)
(…うむ、まあ俺も…興味が無いわけじゃないがな…)
(…へへ、さすが兄者だ、話が判る…)
(…では弟者、そのようにな…)

そのような思惑の中、差し出されたロリアのカップには睡眠薬が盛られていた。
それと気付かず、ぐいぐいと飲みまくるブドウ酒は、既に四杯目を空けようとしていた。

「おいしいですねぇ!私、実はお酒ってはじめてなんです!」

満面の笑み、楽しげにロリアはそう言う。

「え?じゃ、じゃああんまり飲まないほうがいいよ…明日が辛いよ?」
「初めてじゃあ、薬の聞きもすこぶる良いだろうしな」
「アッチの方も初めてだと、楽しいんだがなぁ」
「…え?」

サスキードとガージャが何を言ったのか、良く聞き取れないまま…。
ロリアはその場に、ぱたんと身体を横たえた。
突然の様子に驚くエディをよそに、サスキード達はニヤニヤと笑いあう。
ガージャに至っては、既に上半身の服を脱ぎ始めていた。

「さすが、弟者の薬は良く効くな」
「まかせろよ、兄者」
「え?ど、どういう事ですか!?」

事態が飲み込めないエディが、立ち上がって二人を交互に見やる。

「何って、この娘を美味しく頂くのさ」
「え!?」
「夜中に何の警戒もなく野宿してる初心者に、世間の厳しさを教えてやろうってのよ」
「ま、こんな弄びたくなるような乳持ってるコイツがいけないんだよ」

ハハハ、と二人は笑うが…エディは青ざめて、一歩身を引く。

「や、やめてください!そんな、ケダモノみたいな事…!」
「あぁ?」
「ふん…やっぱお前はお坊ちゃんだな、エディ…」

一瞬、表情を凄ませたサスキードは自前の短剣を抜き、手で揺らしながらエディを睨む。

「どうしてですか!二人とも、親切な人だと思っていたのに…」
「甘ぇ甘ぇ、甘すぎるぜ…俺たちはな、追われる身なんだよ。
 先日、自由騎士の男から色々奪おうとしてドジっちまってな。
 野郎もしつこいもんで、おかげでゲフェンからこんな所まで来ちまったよ。
 お前の事を仲間にしたのは、イザって時の足止めに使えるかと思ったからよ」
「え…!?」
「気付かなかったのかい。
 さっきだって、お前を先に偵察に行かせたのは…危険があったら、
 俺たちがとっとと逃げるためのステゴマにする為だったんだぜ?」
「そんな…」

ぎゃはは…と笑う二人の前でエディは腕を、唇を振るわせる。

「さて、どうするよエディ?
 この娘を助けるために、俺たちとやり合うか?ま、絶対勝てっこないけどな」
「黙ってナイフを仕舞えよ…お前にもこの娘、犯らせてやるぜ?
 見ろよ、この胸」

ガージャは眠っているロリアに馬乗りになり、ノービス用の戦闘服の胸倉を掴むと、
それを勢い良く引き裂いた。
反動で、下着に包まれた二つの膨らみが大きく揺れる。

「うひょひょ、こいつぁ美味そうだぜ…って、何だコリャ?」

と、ガージャが訝しげな声を上げて、ロリアの胸元を見る。
その手に取ったのは、古ぼけたアミュレットだった。

「お?何だ弟者、何か価値のあるモンか?」
「よく判らねぇ…後で鑑定鏡でも使って調べてみるさ。
 それよりエディ、どーすんだよ!俺ぁ、見られながら犯るのも燃えるけどよ!」
「くっ…」

(僕は無力だ…何も、何も出来ない…!)

エディが、唇を噛んだとき。
…クワァーッ!
全員の耳を、何かの鳴き声が直撃した。

「!?」

サスキードとガージャは慌てて周囲を見回しながら、それぞれ得意の武器を手にする。

「い、今の鳴き声…ペコペコじゃないか?まさか、奴が…兄者!?」
「…あれでも鳥だ、夜目が効く訳がねぇ!」

と…ガサガサと木々が鳴き、炎がふわりと揺れた。
三人が音の方へ振り向いた瞬間には、既に影は立っていた。
白銀の鎧と深紅の直垂を備え、背中に大剣を背負った姿。
騎士
兜と目線を隠したファントムマスク、そして鼻まで引き上げたマフラーのせいで、表情はまったく判らなかった。

「て、てめぇ…どうして…!」
「騎乗しているから、夜は移動できないとでも思ったか?
 愚かな…私には、自前の足がある」
「くそっ!そ、そこを動くな!」

サスキードがその手にし、矢を番えた…弓の先を、ロリアに向ける。

「悪いが逃げるぜ、騎士様よぉ。
 ちょっとでも動いてみろ、そこの巨乳ちゃんはおだぶつだぜ。
 弟者!荷物をまとめろ!」
「わ、わかった兄者!」

ガージャが慌てて荷物を、次から次へとカートに放り込んでいく。

「…私がこの娘の命惜しさに、君らを逃がすとでも思っているのか」
「へへ…自由騎士なんて言っても、実際不自由なもんだよな。
 騎士道なんてもんに縛られてるんだからよ」
「………。
 先に私から盗んだ、羽根飾りを返したまえ。
 あれは金銭的に価値も無く、君らにとっても意味の無いものだ。
 返してくれれば、この後追跡はしない」
「冗談言うなよ…ゲフェンじゃロクに稼ぎが無かったからな。
 こんなに血眼になって追っかけてくるって事は、そうとう価値があると見たぜ」
「…愚かな…」
「あ、兄者!」

と、荷物を全て積み終えたガージャが手に斧を持ち、加勢しようと騎士を睨む。

「弟者、エディを抑えろ!」
「お、おう」
「…!?」

一瞬、事態を傍観しているだけだったエディが、驚いて身を引こうとした刹那、
ガージャが素早く彼の背後に回り腕を締め上げた。

「さ、逃げるぜ…追ってくるんじゃねえぜ、騎士様よ!
 下手に追ってきたら、この前途有望なノービス君が死ぬ羽目になるぜ…」
「…まったく、腐っているな君らは。
 先刻まで仲間だったんだろう、彼は」
「何とでも言うがいいさ、俺たち兄弟はこうやって生きてきたんだ。
 エディよぉ、悪いけどもうちょっと付き合ってもらうぜ!」
「あ、あなたたちは…っ!」
「置き土産にその娘はくれてやるぜ…少し惜しいけどな。
 俺たちが逃げる間、たっぷり楽しむがいいさ!じゃあな、あばよ!」

二人と人質の一人は、ゆっくりと騎士を警戒しながら、森の奥へと入っていく。
騎士は動かずに、彼らが消えていく暗がりをじっと見詰めていた。

「…!」

殺気を感じて、すっと身体を横にずらす。
ガィィィーン!
背後にあった樹に、二本の矢が突き刺さった。
サスキードの行き掛けの駄賃であろう。
もう一度、森の奥に目を向けた時…その気配は、完全に消え去っていた。

「…まぁ、良い。
 もうすぐフェイヨン…任務も疎かにできまいしな。
 来い、エクセリオン!」

口元のマフラーを下ろし、ヒュッと口笛を吹くと、
地面の枯れ木を盛大に踏み割りながら、巨大な鳥がゆっくりと現れた。
砂漠に住むペコペコと呼ばれる怪鳥を調教し、騎士の騎乗用に躾られたものである。
その身に着けられた荷物用の鞄から毛布を取り出し、ロリアに向き返る。

(まったく…この娘、少しは警戒したのだろうか?
 もっとも、奴らは一見賊とは判りにくいし、初心者なら仕方ないという所か…)

頬を染め、すうすうと寝こけている彼女は何も知らないのだろうと思う。
あまりの呑気さに、呆れ半分で肩をすくめながら、毛布を掛けようとした時…。

(?…これは…!?)

ロリアの胸元に、輝くアミュレット。
目の覚めるような蒼の紋章に、騎士は思わず見入った。

「…ア、アズライト・フォーチュン!?
 これが何故、こんな所に…?」

思わずそう口に出してしまった程、彼にとって意外な驚きだった。
そして、今度はロリアの顔を見る。

(ということは…この娘が、ロリアーリュ…あるいは、アイネリアなのか…?)

そのまま毛布を彼女の身体に掛けると、騎士は立ち上がって星空を仰ぐ。
無数の輝きを見詰めながら、呟いた。

「これが、運命というものなのか…。
 ラスター卿、私は…どうすればいいのです?」

残り火がまだ小さく燃える…黒い森の中で、ロリアはただ小さな寝息を立てていた。


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